ANOTHER BLACK SUN IN THE SKY詩集一次創作

ANOTHER BLACK SUN IN THE SKY

 ふと 目を覚ます  胡乱な頭は夢を見ていた  夕暮れに沈む 男たちの慟哭  決して省みられる事のない 百姓達の祈り  太陽は静止し 永久の夕焼けが彼らを灼き尽くした時  俺の頭に大きな鐘の音が鳴り響くのさ

 顔を洗おう 今日はそこから始まる  無機質な四角い部屋 白い壁に映る いろんな角度の自分  振り返りもしなかっただろう?

 鏡に映る俺の双眸は  まるで黒い太陽のようだ  俺自身さえも呑み込んでしまうような 黒い闇  水に濡れ 情に乾いた瞳  見つめている先は 過去に居るのか?

 外を歩く  すれ違いざまに感じる 人々の生き様  子供達の無邪気な笑い声を聴いた  逢引する学徒二人の 幸福に満ちた微笑みを見た  健やかに育ち 生きる彼らに比べて  まるで俺は 案山子のようだ

 稲穂の背丈を見て 過去の自分を夢想する  私も昔は こうであったのかと  だけど本当は違うのさ  俺の過去は 退屈でつまらないものだ  何ができる? そう問い続けただけの人生だ  何故に生きる? そう不貞腐れただけの生涯だ  安寧に胡座をかいて 変わろうとすらしなかった過去を眺める時  俺の頭に大きな鐘の音が鳴り響くのさ

 家だ また家に帰ってきた

 部屋の中はやけに静かだった  外の残響が耳を劈いたのか?

 此処はとにかく心地が良かった  外の光景がそれほど悍ましかったのか?

 祈りは絶え 願いは聞こえない  今日もまた 俺は何かを恐れていた  灯を消して 瞼を閉じてしまえばいい  そう 全ては絶えず 過ぎ去り往くものだから

 空を見てみろよ。  底無しの沼だ。  ここいらじゃあ、声も祈りも届かねえぜ。  それが、俺達のいる場所なんだ。  居場所に文句を言ったって、しょうがないだろう? お前。

 あっちだ、俺の指さす方。  闇の中、キラキラ光るの、見えるだろう?

 燦然と輝くお星さま  俺はそれに 憧れていた  何故お前は たった独りで周囲に抗えるのか  誰かの希望として 輝き続ける事ができるのか  独りが 怖くないのか  俺が今 見つめている事も 知らないくせに

 見惚れてんのか、それも分かるぜ。  だがな、忘れんなよ?  アイツらだって、本当は怖いんだからよ。

 街中を歩いて 亡霊のように彷徨う  舞台に登壇して 万雷の喝采を受ける  どちらが幸福か 言うまでも無い  輝ける人生の方が 美しい  目を奪う人生の方が 楽しい  だけど その座はいつも 誰かに奪われている  俺は透明のまま 砂漠の地を歩いているんだ

 誰かが足跡を見たか?  俺の躰から滴る血と汗が濡らした軌跡を見たのか?  夜気に呑まれ 心を引き裂き 叫ぶ声を 一体誰が聴いてくれたというのか?  応えは無い それは酷く自明な事だ  俺の眼差しは 気づけば星を睨み返していた

 果たして、アンタはどっちなんだろうな。  闇に光る星を憎んでいるのか。  それとも、星に憧れていながら、夜に怯えて輝こうともしなかったアンタ自身を、恨んでいるのか。

 心臓を濡れ手で掴むような 弦の声  異様に甲高く そして嘲るようなその声が とかく嫌いだった  分かり切った事を とやかく言われる筋合いは無い  黙れと言ってやれば よかったのに

 もう、アンタの時代は終わったんだよ。

 声はそう言って 何も語ってはくれなかった

 夜はいつも永久に思える。  恐怖は常に身近に感じる。

 過ぎ去ったはずの苦痛と、  これから僅かに滴るはずの幸福の雨は、  きっと等しい価値をもつだろう。

 日々は苦楽を共にして、  痛かったはずの傷も、辛かったはずの過去も、  きっと私は、置き去りにして前へ進むのだろう。

「俺の時代は、もう終わったのさ」

 そう問いかける声は、他ならぬ私であった。

 星になれず、  星見でしかなかった私。  今更、光を解き放つ事など、出来やしないだろう。  そう思う度に泣かせた両眼は、既に枯れてしまった。

 黒い外套を身に纏い、外へ出かける。  行先は決まっている。駆け足で向かう。

 確かに、私は、星見でしかなかったけれど。  それでも、星が大好きだった。  燦然と輝く光が、何よりもの希望だった。

 秋の空、お天道様が見ている。  たった一度だけ、誰もいない公園で日食を見た事があったっけ。  自ら輝く事の無い月は、あの一瞬だけ、光を奪う影として注目されるんだ。

 氷空に浮かぶ、もう一つの黒い太陽。  もう二度と、見る事は叶わないだろう。

 目的地について、足を止める。  眼下に広がる、一面の小麦畑。  唯一変わらずに残るこの光景が、私のお気に入りだ。

 風が耳を撫でて、稲穂たちが騒然に揺れだす。  もうすぐ、収穫の時期だろう。

 遠方。突然鐘が鳴り響く。  子供たちの喧噪な笑い声。  かえったら、いっしょにあそぼう。  そんな、楽しそうな声が聞こえる。

 どうかその一瞬を、大切にしてほしいと。  老婆心ながら、彼らの未来を祝福する。

「ねえ」

 こんな秋空には、風船が似合うだろうな。  色とりどりの、小さな風船。

「ねえってば」

 時々、考える。  もしも、私がやり直せたら。  その時は私も、彼らの様に、励まし合いながら生きる事ができたのかなって。  そう、思ってしまう。

「貴方は、本当にそれでよかったの」

 うん、だって、それはしょうがない事だから。  生まれてきて、私は偶々、そうなれない躰だったっていうだけの事。  それでも、誰かに与えられた幸せは、本物だったから。  だから、これから幸せを振りまいてくれる人達を、遠巻きにでも、支える事ができたらいいなって、その一心で今日まで生きてきたんだ。  だから、これで悔いはないんだ。

 誰かと話していた気がする。  私の回答は、この上なく素晴らしいものだったというのに。  応えは無く、すっかり慣れてしまった沈黙だけが、殊更に雄弁であった。

 別に、構わないよ。  気にする事でもないさ。

High Hopes

謝辞

 本作の執筆にあたって、かけがえのないインスピレーションを与えてくれたピンク・フロイドの五人、シド・バレット、ロジャー・ウォーターズ、デヴィッド・ギルモア、ニック・メイソン、リチャード・ライトへ、心より感謝を申し上げます。